大判例

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東京高等裁判所 平成元年(ネ)1987号・平元年(ネ)2976号・平2年(ネ)1237号・平2年(ネ)1238号 判決

控訴人は、本件解雇は、就業規則二二条一項七号(労働協約七六条八号)に基づくものであって、同号に規定する場合に該当すると主張するところ、就業規則及び労働協約の該当箇所において、控訴人は、「会社が経営規模の縮小を余儀なくされ、または会社の合併等により他の職務への配置転換、その他の方法により雇用を続行できないとき」に組合員を解雇することができる旨定められていることは当事者間に争いがない。そして、控訴人が、解雇に関して就業規則に右のような定めを設けたのは、解雇に一定の要件を設けることによってその自由を自ら制限した趣旨であると解することができるが、それとともに、同じ定めが労働協約にも設けられていることをも考慮すると、右の定めが存在することにより、その要件に該当する場合に行われた解雇は、権利の濫用に当たるかどうかを他の事由によって吟味するまでもなく、当然に有効であると解するのが相当である。≪中略≫

右認定事実によれば、移籍を応諾した者との賃金の格差を無視すれば、控訴人は、被控訴人を子会社に出向させ、又は研修の後に職種転換させること等により、同人の雇用を続行することが可能であったのであるから、物理的には就業規則等に定める「他の職務への配置転換、その他の方法により」被控訴人の「雇用を続行」することができない場合に当たらないことが明らかであるが、人事管理上、移籍応諾者との公平を度外視した処遇をすることはできないという前提をとるとすれば、控訴人は被控訴人の雇用を継続することができないこととなる。この点につき、控訴人は、被控訴人に就かせる仕事がないと主張するとともに、他の移籍対象従業員が労働条件の低下を忍んでやむなく移籍に応じたことと対比すれば、労働条件を維持したまま被控訴人の雇用を継続することは、これらの者との公平を失するばかりでなく、移籍を応諾した者が移籍を撤回する原因となるおそれがあり、そうなると、控訴人は所期の目的を達し得ないと主張する。

そうすると、控訴人が被控訴人に就かせる仕事がないと主張する趣旨は、物理的に仕事がない(そういう主張であれば理由がないことは右に説示したところから明らかである。)というのではなく、川崎工場の子会社化による合理化の貫徹と控訴人の公平を旨とした人事管理とを阻害しない限りにおける被控訴人の処遇としては、従前の賃金を維持したままで就かせる仕事がないというに帰するものである。そして、被控訴人が溶接作業に関する技能職であって、その従前の賃金が高水準であったこと及び前認定の川崎工場の子会社化の後における控訴人の組織や業務の態様からすると、第一次及び第二次非常時対策によって賃金の引下げを受けた川崎工場の在籍者及びかつて同工場に在籍した者との公平を維持することを前提とするかぎりにおいては、控訴人の右主張を肯認することができないではない。そこで、このような状況にあることをもって、被控訴人につき「雇用を続行」することができない場合に該当するといえるかどうかについて検討する。

川崎工場についての合理化を貫徹すること及び公平な人事管理を維持することは、控訴人にとっては、その経営に関する重大な利益であるということができるが、被控訴人につき、その雇用を維持することによって、これに抵触する事態を生じたとしても、それが直ちに控訴人の存立を脅かすものではないことは、前認定の控訴人会社内部の実情からみれば明らかである。そして、前示就業規則の解雇に関する条項の趣旨は、解雇をすることができる場合を限定することによって雇用を安定させるとともに、控訴人の経営上雇用を維持することができない場合には解雇が可能であるものとし、これによって健全な経営の維持を図る趣旨であると解することができる。そうとすれば、本件において、被控訴人の「雇用を続行」することができなかったのかどうかは、被控訴人の雇用を維持することによって被る控訴人の右の点についての不利益を考慮するとともに、川崎工場の子会社化に関する控訴人と組合及び被控訴人との間の折衝等の経緯に鑑み、被控訴人を解雇することが被控訴人の利益を不当に害し、又は信義に反するものであるかどうかを参酌して決するのが適当である。

前認定の各事実に弁論の全趣旨によれば、控訴人は、川崎工場の子会社化に当たっての技能職の処遇につき、子会社への移籍を建前としながらも、移籍に同意するかどうか(移籍か残留か)を本人の自由な意思に委ねるものとし、控訴人会社に残留した場合の処遇については、他の子会社への出向の可能性等を示唆したものの、最終的に解雇もあり得ることについては全く言及しなかったことが明らかである。もちろん、自由な選択とはいっても、残留を選択した場合においては、その後の処遇が良好なものではないであろうことは当然に予想されたところということができるが、解雇の重大性に鑑みると、交渉の過程において自由な選択を建前とし、解雇に触れるところがなかったのに、被控訴人の処遇について手詰まりになった結果とはいえ、解雇に及んだことは信義に反するとのそしりを免れることができない。

また、被控訴人に従前の賃金を維持すると、移籍に応じた他の技能系従業員との間の公平を欠くことにはなるが、前認定のように、立場が異なるとはいっても、川崎工場に勤務していた事務系従業員のうちには、本社に配置転換されて従前の賃金を受けている者もあるのであるから、それとの比較においては不公平はなく、結局公平を欠くかどうかは、相対的な問題であるということもできる。

川崎工場についての合理化は、控訴人会社の存立に係わる程の問題ではなく、しかも、その子会社化が、割高であった従業員の賃金をカットすること等による合理化策であったことは否定し難いところである。このことと、一般に賃金の切下げには従業員の同意が必要であることを考慮すると、右の合理化の遂行とこれに伴う人事管理上の公平を維持する利益は、控訴人の方針に賛同しない従業員に対して解雇による不利益を負わせる根拠としては必ずしも充分なものではないというべきである。

控訴人が強調するように、被控訴人がごね損をする結果となるというのも素朴な感覚としては理解することができるが、川崎工場の合理化に対して徹底的に抵抗する従業員もあり得ることは、前認定の事前の状況から予測されるところであったということができるから、これに対する控訴人の当初からの対応が適切であったかどうかが問われるべきであり、その対応において不十分の点があったがために独り被控訴人のみが利益を受ける結果となったとしても、その結果は甘受するのほかはないということができる。

以上の検討の結果を総合すれば、本件において、被控訴人の「雇用を続行」することができない場合に該当するものと断定することは困難であるというのほかはない。

そうすると、本件解雇は、就業規則二二条一項七号(労働協約七六条八号)前段に定める「会社が経営規模の縮小を余儀なくされた」場合に該当するが、同号後段に定める「雇用を続行」することできない場合には該当せず、結局、同号の要件を具備しないものであるから、解雇権を濫用するものであって無効であるといわなければならない。そうとすれば、その他の点について判断するまでもなく、控訴人と被控訴人との前記雇用契約関係は有効に存続するものというべきである。

(橘 小川 南)

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